科学技術立国の危機
『願いとして、この受賞を契機にして、産業に役立つとかなんとか、見返りのない基礎科学の研究が、日本でもっと強力に進められたらうれしいですね。私どものやっていることなんて、見返りなんかあるはずないからね。』
7年前、小柴昌俊先生が、ノーベル物理学賞を受賞された時の言葉です。
日本が科学技術立国たる所以は、まさにこのような「見返りのない基礎研究」を地道に続けてきたからです。
このころすでに、日本では過剰な成果主義が横行し、自然科学分野の研究もそのあおりを食っていました。私も、いくつかの新聞、雑誌でその点について警鐘を鳴らしてきたつもりです。
今回、政府が進めている『事業仕分け』では、こういった、基礎科学の研究につながるいくつかの設備の計画が予算凍結されると報道されています。
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/politicsit/324057/
スーパーコンピューターのほか、スプリング8なども削減対象になりました。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091113-00000081-san-bus_all
そうして浮かした予算を家庭に支給して消費させる。そうすれば、景気が上向く、と言うのが与党民主党の持論ですが、果たしてそうでしょうか。
ケインズの「有効需要の法則」を思い出してみましょう。
GNP=消費+投資
消費が1兆円増えたところで、GNPは1兆円しか増えない。
投資を1兆円増やせば、公比をaとして、1/(1-a)倍になる。a=0.8ならば5倍、つまり5兆円。(これは高校の数学です。但し、数学が苦手で数学Iしかやらないで経済学部とかに入っちゃったような人は知らない数学ですが。たぶん『子ども手当によって家庭の消費が刺激されて景気が良くなる』なんて言っているおバカな政治家や経済評論家はそうでしょう。)
閑話休題、これをケインズの乗数効果と言います。
設備投資の一兆円は8000億円の需要を生み、それが6400億円の需要を生み、次には5120億円の需要を生み…、と全部足すと5兆円の需要になります。
スパコンを作る、というのはそう言うことです。
一兆円かけて作ったとします。その一兆円でGNPは一兆円増えます。さらに、スパコンを使いたいという企業やら大学がお金を出してくれます。+8000億円。さらにその企業やら大学の成果に対してお金を出してくれる企業やら団体があります。+6400億円…。
子ども手当というのは、仮に全部消費したとしても、1兆円を消費しておしまいです。しかもそれは全部税金なので、投入した税金、1兆円分の効果しかありません。(子どもが生産財かどうかという議論はとりあえず置いておきます。)
しかも、1兆円は丸々消費されません。ある調査では、半数近くの家庭で、なんらかの形で貯蓄に回す、と答えています。
また、設備には減価償却というものがあります。
税制上の減価償却などど言うものは便宜上のものであって、そのまま鵜呑みにしてはいけません。
要は、その設備が陳腐化するまでに元を取れ、これが減価償却の考え方です。
スパコンの処理能力の進歩というのは目覚しいものがあります。この3年間で10倍以上高速化しています。実は、3年前まで世界最速は日本のスパコン(地球シミュレーションセンター、122,400Gflops)だったのですが、今はアメリカのロスアラモス国立研究所が持っています。最高速度 1,456,704Gflops。
これが意味するものは何でしょうか?
スパコンは3年で元をとれ、と言うことです。
言い換えれば、スパコンの減価償却期間は長くて3年。
完成時に世界最高性能を目指さないでどうするのでしょう。
アリストテレスは言いました。
『民主主義は混乱を招き、衆愚に媚びるおそれがある』(二コマコス倫理学、第八巻十章)
日本の現状を予言していたかのようです。
そして、科学技術立国、日本は滅亡するのです。
投稿者 suzuki : 2009年11月14日 06:56
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