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2005年07月31日

ラリー車のサスペンションはなぜ固い?〜自動車工学(3)/カンタン音振講座(2)

さて、自動車工学講座の3回目。
ラリー車のサスペンションはどうして固いのか?

前回、カンタン音振講座(1)では、自動車の音について、お話しました。
今回は、振動についてです。

よく、ラリー車やレーシングカーなどの競技車や、チューニングカーで、サスペンションのスプリングを強いものに換えたり、ショックアブソーバーを換えたりしますね?
これはいったいどんな効果があるのでしょうか?

前回と同じように、Scilabを使って、今度は自動車のサスペンションの計算をします。

計算モデルは、図-1に示します

クリックで拡大します。

図-1:k1はタイヤのバネ定数、m1はバネ下の質量、k2はサスペンションスプリングのバネ定数、Cはダンパー(ショックアブソーバー)の強さ、m2はバネ上の質量です。

それでは、これらの値を、いろいろ変えて計算してみましょう。
バネ上の振動とバネ下の振動について計算します。
計算式は、自動車技術会編 自動車工学 -基礎- P.137の129式(バネ上)、P.138の138式(バネ下)を使います。ここでは、特に式を見る必要はないので、割愛します。
バネ上振動は主に乗り心地に、バネ下振動は、タイヤの路面追従性に影響します。

まず、バネ上の計算をしてみましょう

図-2を見てください。

図-2:バネ上の振動。横軸周波数[Hz]、縦軸は、上のグラフがゲイン[dB]、下のグラフが位相[度]。

ゲインと言うのは、この場合は、路面の凹凸による振動をどのくらい車体に伝えやすいか、と言う指標です。位相は、路面の凹凸と車体のゆれがどのくらいずれているか、と言う値で、0度だとまったく同じ、180度は全く逆になります。ゲインの特性で、1Hz付近と10Hz付近に折れ曲がりがありますが、それぞれサスペンションとタイヤの共振点です。この状態では共振は起きていません。

では、図-3を見て下さい。サスペンションスプリングのバネ定数を変えて計算したものです。

図-3:サスペンションスプリングのバネ定数を2倍、4倍で計算したもの。

バネを固くすると、共振点が高周波側に移動し、同時に共振を起こし始めています。つまり、路面の凹凸を一回乗り越えると、何度も車体が揺さぶられる状態になります。

サスペンションスプリングのバネ定数4倍ではかなり共振を起こしているので、とても乗り心地が悪いです。そこで、ダンパー(ショックアブソーバー)を固くします。

図-4は、サスペンションスプリングのバネ定数4倍で、ダンパーの固さを、2倍、3倍にして計算したものです。

図-4:ダンパーを固くすると、共振が収まるのがわかる。

以上が、バネ上の計算です。

同じことを、今度はバネ下について計算してみましょう

図-5、図-6、図-7は、バネ下の振動の様子、つまり、タイヤの振動を計算したものです。

図-5:最初の状態(図-1の状態)


図-6:サスペンションスプリングのバネ定数を2倍、4倍にして重ねたもの。

今度は、位相に注目して下さい。180度から0度に変わる周波数が、バネ定数と共に大きくなることがわかります。180度というのは、タイヤと車体が逆に動く、0度というのは、タイヤと車体が一緒に動くので、180度でいる間は、タイヤが路面の凹凸に追従している状態です。つまり、サスペンションスプリングを固くすると、より高い周波数までタイヤが路面の凹凸に追従できる、と言うことです。
また、ゲインを見ると、サスペンションスプリングを固くするとタイヤが共振を起こしているのがわかります。

この共振も、ダンパー(ショックアブソーバー)を強くすることで対策できます。


図-7:サスペンションスプリングのバネ定数を4倍、ダンパー(ショックアブソーバー)の固さを2倍、3倍にしたもの。

まとめ
以上のように、サスペンションスプリングを強くすると、バネ上の共振点も、バネ下の共振点も高周波側になります。
この場合では、バネ定数を4倍にすると、バネ上の共振周波数が1Hzから2Hzに上がりました。
また、タイヤが路面の凹凸に追従する周波数も高くなりました。

路面の凹凸が同じなら、自動車の速度を上げると、路面から入ってくる振動の周波数が高くなるのはわかりますね?

つまり、同じ凹凸の路面を走っても、サスペンションスプリングの強い(バネ定数の大きい)方が、高速までタイヤが路面に追従する、と言うことです。

ラリー車や、レーシングカーでは、市販車のおよそ2倍〜4倍程度のバネ定数のスプリングを使います。これによって、高速でもタイヤがしっかり路面を捉えて、安定した走りができるのです。

ただ、スプリングだけ強くすると、共振を起こしてしまうので、ダンパー(ショックアブソーバー)も強いものに変える必要があるのです。

では、今回使ったScilabのファイルを置いておきますので、Scilabをインストールした人は自分で値を変えて計算してみてください。

Scilabファイル
set_parm.sci
ue.sci
shita.sci

使い方
全てのファイルを同じディレクトリにダウンロードし、set_parm.sciをダブルクリックすれば、Scilabが開くので、SciPadで値を確認する。
Scilabコンソールから、file -> exec -> set_parm.sci を実行すれば、図-1の値を設定する。
続いて、file -> exec -> ue.sci ,file -> exec -> shita.sci を実行すれば、それぞれ、バネ上、バネ下の計算をする。
Scilabコンソールから、たとえば、K2=320000.0(設定する値は全て大文字) などと入力して、もう一度 ue.sci, shita.sciを実行すれば、値を変えて計算する。グラフィックウィンドウは、閉じるまで重ね書きするので、消したい場合は、消去コマンドを打つか、一旦閉じて実行する。

投稿者 suzuki : 2005年07月31日 13:05

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