人工知能という幻想
人間と同じ言葉がしゃべれて、同じような動作ができれば、人間と同じと言えるのだろうか?
コンピューターに知能を持たせる、という夢は、コンピューターが地上に現れたときから始まった、と言っていい。
汎用コンピューターを考案したイギリスの数学者、アラン・チューリング(1912/6/23/ - 1954/6/7)は、チューリングテストという方法を考案し、コンピューターの知能を測った。
この方法は、人間とコンピューターを会話させ、人間の質問者を騙すことができたら、そのコンピューターには知能が備わっている、とみなすものだ。
実際には、コンピューターの内部では、機械的に応答するだけの単純なプログラムが走っているだけだ。
それでも人間は騙される。
コンピューターに知能を持たせることが可能である、と信じたのだ。
1950年代のことである。
それから半世紀、世の中はどのくらい進歩しただろう?
確かに、スーパーコンピューターの計算能力は人間に近づいた。
(http://blog.suzukiyutaka.com/archives/2005/07/post_70.html)
しかし、人間の脳と同じ働きをするわけではない。
それでも、コンピューターに人間と同じ知能を持たせる、という試みに情熱を燃やしている人たちがいる。
そして、興味は、人間そっくりの動作をする機械(ロボット)へと移っている。
20世紀後半、急速に発展した、メカトロニクス技術によって、単純なやりとりだけではなく、動作まで模倣することが可能になったからだ。(http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200607200094.html)
私は、世の中にはさまざまなことを研究する人がいてもいいと思う。
その先にあるものが、結局のところチューリングマシンであっても、何か得るものはあるはずだ。
しかし、すでに科学的に証明された事実は変えられない。
人の脳と、コンピューターは違う。
現在のコンピューターの延長上には、人工知能は存在しない。
これは歴然とした事実である。
新しいことにチャレンジすることはいいことである。
しかし、幻想を抱いてはいけない。
参考文献:
考える脳 考えるコンピューター−ジェフ・ホーキンス
パームコンピューティング社創設者、最新の脳科学研究の立場から、コンピューターペースの人工知能の限界と、脳と同じ働きをする、真の人工知能の可能性に言及。
脳と創造性 「この私」というクオリアへ−茂木健一郎
創造性とは何か、という問い関する本だが、かなりのページを割いてコンピューターと脳の違いについても書かれている。
投稿者 suzuki : 2006年07月22日 07:40
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
コメント
モニター越しなら、相手がコンピュータだと気がつかないままコミュニケーションしてしまう、というケースは、すぐにでも起こりうるでしょう。
それはいわゆる「人工知能」とは次元の違うものですが、特定のケースであれば、チューリングテストをパスすることはできると思います。
(特定の判定員、も条件に必要ですね)
トレンドが人工知能からロボット研究に推移したのは、
人間の知性に対する知見に進歩があったからだと勝手に認識してます。
「人間の知性は単純な静的な情報処理系」
から
「人間の知性は周囲の環境と相互干渉して成立している」
へ。
専門外なので見当違いなことを書いてるかもしれませんが。
「人工知能」として目指してきたものは
「人間の知性を模倣」しようとしてきたのですが、
(個人的には)人間の知性とは全く異なる知性が誕生することになるのを期待しています。
投稿者 ちかざき : 2006年07月27日 22:03
ちかざきさん、こんにちは。
これは、知性とは何か、と言う哲学的なテーマになりますね。
私の言いたかったのは、人の脳と同じ機械は、今のコンピューターの延長上にはない、と言うことなのです。
確かに、その先にあるものが、単なる計算機を越えたものになる可能性は大いにありますね。
貴重なご意見、ありがとうございました。
投稿者 すずき : 2006年07月28日 16:12